2011/11/25

 
江戸という生き方

11月20日、神戸文化ホールで開かれた田中優子法政大学教授の講演を聞いた。田中優子氏には、江戸時代の価値観から見た現代社会への提言の著作も多く、私も楽しみにしていた講演会だった。演題は「江戸という生き方-戦争は必要ですか?-」

以前から江戸時代の社会システムは循環的でとても「エコ」なものだとは聞いてはいたが、田中氏の話で、それが自然発生的なものではなく、多分に意図的、計画的に創りだされたシステムであったことを知り、非常に感銘を受けた。

まずその時代背景。徳川幕府が誕生したのは、戦国時代を経た後。すなわち内戦、豊臣秀吉による朝鮮半島への出兵、そして敗戦という、国土が荒れ果て、国力は衰退の限りであった時期に誕生した政府だった。実際、長い内戦で農地も荒れ、また戦国時代は城の建設ラッシュの時代でもあったそうで、木材も枯渇、武器の製造や購入のために鉄や銀の生産も膨大で、生産も頭打ちとなる。そこで徳川幕府がとった政策は、戦争を回避し、限りある資源で成り立つ社会という、現代社会を生きる私たちの願いを体現したような平和な循環型社会の構築となった。

循環型社会構築への具体策のひとつに、森林資源の循環利用がある。江戸時代初期には大河川工事などの土木工事が集中するが、その後は木材の利用を制限し(江戸城の天守閣が火事で燃えてしまっても、木材利用制限のために再建はしなかったそうだ)、1700年代以降は人工林の育成を始め、森林資源の循環利用を可能にした。

また、江戸の町には、徹底したリサイクル政策を取った。一例をあげると下肥リサイクル。昔はトイレのことを厠(かわや)と言ったが、これはトイレの下には川が流れていて、糞尿は川に流していたということだが、それを禁止し、江戸の町の長屋には共同トイレが設置され、すべて汲み取り方式となった。そこに下肥問屋を整備し、江戸の町で出た下肥を農地へと運び、肥料として使うリサイクルシステムを完成させた。それだけではなく、生活で使われたもの(着物、紙、竹、稲)は徹底的に再利用され、最後は燃料として火にくべられ、灰となって、それも農地で肥料として使われた。ほとんど捨てるものはなかったということだ。

戦争回避の政策としては、外交に力を入れたという。海外渡航を禁止する一方、北方のアイヌ民族や朝鮮半島とも対話を重ね、関係構築や修復に力を注いだそうだ。また、オランダなどの限られた外国との貿易は一定量のみ継続。それにより海外の技術を取り入れ、国内で生産するという技術力向上、自給力の向上を維持したという。そして、戦争もなく、活気ある町人文化が花咲く江戸時代が、250年続いたのだ。


今からおよそ400年前の日本の姿。この小さいけれども自然豊かな島国で、限りある国土、限りある資源を大切に使い、循環させ、限りない恵みを受けていた社会。それが長い戦争と浪費の果てに日本人が行き着いた社会だったと知ったとき、私はこれからの日本に、そして世界に、わずかな希望を見出せたような気がした。


参考資料:「江戸という生き方-戦争は必要ですか?」田中優子講演会資料(主催:九条の会ひょうご・9条心のネットワーク/2011年11月20日@神戸文化ホール)


おまけ
上記を書いた翌日、神戸市の東灘処理場が取り組む「こうべバイオガス」の施設見学に行きました。下水処理をする上で出てくる汚泥を濃縮し、消化タンクで発酵させ、メタンガスを取り出し精製し、それを天然ガス車や、都市ガスへと供給するシステム。これこそ現代版の下肥リサイクル!なぜか今まで知らなかったのですが、数年前から神戸市と神鋼ソリューションと大阪ガスで進められてきた日本発の取り組みだそうです。21世紀版、下肥リサイクルに要注目です。

2011/11/04

 



「なんで命がけで原子力で発電するの?
電気料金の仕組みを変えるだけで、脱原発はできるのに」


11月3日。私も実行委員として関わらせてもらった「神戸からエネルギーの未来を考えるフォーラム」で、田中優さんの講演を聞きました。原発のない社会を望む国民が大多数を占める中で、まったく遅々として進まない・・・それどころか経済界の後押しにより復活してきそうな原発に、多大な危機感を持っていたこの時期に、田中さんのお話を聞けたことは幸いでした。田中さんの脱原発への指南はいたってシンプル:

「なんで命がけで原子力で発電するの?
電気料金の仕組みを変えるだけで、脱原発はできるのに」

夏も冬も電力会社は家庭も企業も巻き込んでの節電要請をしてくるが、家庭の電力消費は全体の4分の1以下。それも、夏の電力消費ピーク時(平日、13-14時台、気温が32度を超えた時)では、家庭の電力消費量が最も少なく、ピークを生み出しているのは9割を消費している事業者である。では、なぜ事業者はピークを作るのかというと、同じ1ヶ月の中で、家庭は使うほど電気料金単価が高くなるのに、事業者は安くなるという料金体系だからだ。事業者も電気料金を使えば使うほどあがるようにすれば、事業者は3~5割は節電するので、それだけでピークは抑えられる。またピーク時の電気料金を高く設定するということで、ピークを抑えることも可能だ。



電気料金で消費削減。それだけで原発は不要になる。それなのになぜ私たちの命と故郷を脅かす原発にしがみつく必要があるのでしょう?簡単にできることもしないで、「電気が足りない」「原発は必要だ」と言い続ける電力会社をもっと厳しく追及する必要があると思います。

田中さんの主張は、まず、消費電力を削減し、脱原発を果たし、その後自然エネルギーを普及させていくという順序で、暮らしやすい社会を実現させようというもので、そのためのたくさんのアイデアや事例を紹介してくれました。

この問題は一私企業に任せておいてはいけない、私たちや未来の子どもたちの命と暮らしに関わってくる問題です。それを考える一つの参考意見として、田中さんおお話にも耳を傾けていただければと思います。
全国各地で講演をされていますので、講演スケジュールなどは下記をクリックしてご確認ください。
田中優オフィシャルブログ:田中優の'持続する志'


最後に特筆すべきこと。今回のフォーラムのステージ上で使用した電気は、自然エネルギーで蓄電した独立電源装置によって供給されました。この装置を開発された神戸在住の会社社長・粟田隆央さんのお話も、明るい未来を感じさせてくれました。粟田さんのおかげもあって、神戸から、市民から、何かが変りそうな予感を多くの人と共有できたフォーラムとなりました。


♪写真は講演中の田中優さんと、独立電源装置です(右の大きなスピーカのような装置)♪




追記:関西電力管内に住む私の体験ですが、先日ある会社からセールスの電話がかかってきました。「電気の深夜割引料金制度を使う給湯器に買い換えて、光熱費を安くしませんか?」との主旨。この会社が売ろうとしているものは給湯器のようですが、それを可能にしているのは関西電力の電気料金体系。「原発がなくて電気が足りないとから節電を!」と言いながら、相変わらず「原発が夜も発電し続ける不利益」を解消するために導入した料金体系を関西電力は維持しているのですよね。この地域の電力を独占し、自社の利益のために電力という権力を濫用する株式会社。奇妙な存在だと思いませんか?

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