2012/07/31

 

繰り返される過小評価:放射線被曝の危険性~広島・長崎~チェルノブイリ~福島



「われわれは放射線被曝の影響についてどれほど知っているであろうか。」


1991年に刊行された『放射線被曝の歴史』。当時神戸大学教授であった中川保雄氏(1991年病没)が病床にありながらも、放射線被曝の危険性と、それを過小評価してきた原子力利用推進機関の正体を知らしめようと執筆された、貴重な警鐘の書だ。67年目の8月6日を迎えるにあたって、これまで繰り返されてきた、そして今また福島で繰り返されるかもしれない、その過小評価について、今回はまとめてみたい。



なぜ、過小評価が行われるのか?そこには明確な意図があると想像できる。中川氏によると、「放射能の恐さや放射線被曝の危険性に関する公的なあるいは国際的な評価は、核兵器を開発し、それを使用し、その技術を原発に拡張した人びとと、それらに協力してきた人びとによって築きあげられてきたのである。」『放射線被曝の歴史』p.11



放射線被曝の危険性に関する評価を築いた「核兵器を開発し、使用した」人々とは、まず第一に67年前の8月6日、広島に原子爆弾を投下した米軍があげられるだろう。「日米合同」との名目の下に設立された原爆傷害調査委員会(ABCC)は、もともと全米科学アカデミー・学術会議の「原子傷害調査委員会(ACC)」という組織で、それは、「原爆投下国の軍関係者が投下された国でその被害者を対象に、治療はいっさい行うことなく、新たな核戦争に利用するためにデータを得ようとする調査」(同書、p.53)を行う目的で設置されたものだった。



そのABCCが「調査」した放射線被曝の危険性が、いかに偏ったデータに基づき、自分達に都合の良い結果を導きだしたかは、『放射線被曝の歴史』第6章「広島・長崎での放射線障害の過小評価」に詳しいが、これが今後の核兵器使用を可能にするために、原爆により直接起きた傷害限定で調査が行われ、投下後も延々と続く内部被曝、低線量被曝による傷害が無視されたことは、容易に想像がつく。



このような偏った調査と過小評価の目的を、先日(2012年7月28日)放送のTBS『報道特集』において、広島大学原爆放射線医学研究所大滝慈教授も、「内部被曝の問題の重要性が明らかになると、アメリカの核戦略の前提が崩れてしまう」からではないかとの意見を述べられたいた。
「知られざる”放射線影響研究所”報道特集20120728」(20分ごろ)




すなわち戦争が終結しても一般市民を延々と苦しめ続ける兵器は、ハーグ陸戦条約23条5項で禁止されている「不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること」に当てはまり、「人道に反する兵器」として、地雷やクラスター爆弾と同様にその使用が禁止される可能性がある。ということは、アメリカを始め、国連の安全保障常任理事国を筆頭に、核兵器を持つ国々が、内部被曝、低線量被曝の危険性を絶対に認めないという意図を持っていても不思議ではない。



この意図は、チェルノブイリ原発事故をめぐる健康傷害調査にも影響を与えているのではないだろうか?2004年にスイスで制作されたドキュメンタリーでは、核保有国が安全保障常任理事国(P5)である国連の下部組織であるIAEAやWHOが、なんら科学的分析、検討もせず、「名ばかり」の国際会議を開催し、内部被曝の脅威を無視し続けていることがよくわかる。これはP5の核戦略を維持するために繰り返される「儀式」のように私には見えるのだが。。。50分の長い動画だが、ぜひご自分の目で確かめていただいきたい。

2004年スイス制作「真実はどこに?―WHOとIAEA 放射能汚染を巡って」
http://www.youtube.com/watch?v=oryOrsOy6LI&feature=g-like




そして、福島第一原発事故。今また、内部被曝・低線量被曝の危険性は隠されようとしているのではないか?

「放射線被曝を被った福島県民の間で、将来の健康被害への不安と関心が高まるなか(中略)、福島県の「県民健康管理調査委員会」検討委員会(検討委)は六月十八日、健康管理の調査計画を発表した。(中略)(しかし)調査も、調査にもとづく健康管理も、「不安」の払拭が第一の目的とされている。被曝によって実際に生じる可能性がある疾病(身体的健康被害)の予防、早期診断と治療等は明記されていない。」



「県民調査を、疾病の予防や治療とは結びつかない健康影響データの収集に終わらせてはならない。原爆投下後、ABCCは被爆者の傷害調査を行った。目的は「核兵器の効果」を調べることにあり、治療は一切しないばかりか、検査結果は何一つ知らせなかった。調査にかり出された被爆者は、「モルモット」として扱うのか、と抗議した。このような歴史的教訓を思い起こし、検討委を監視していかなくてはならない。」(同書・補筆、 p.301)





最後に、もう一度中川氏の言葉を紹介したい。



「被害をどう見るかが問題とされる事柄を、加害した側が一方的に評価するようなことが、しかもそれが科学的とされるようなことが、まかり通ってよいものであろうか。そのような問題の評価を基にして、現在の放射線被曝防護の基準と法令が定められている。言い換えれば、一般には通用しないようなやり方で、放射線被曝の危険性とそれによる被害を隠し、あるいはそれらをきわめて過小に評価することによって、原子力開発は推し進められてきたのである。」(同書、pp.11-12)



「それらの『定説』」とされている考えを批判的に受け止めることから始めなければ、被爆国のわれわれが世界の他の国の人びとよりも放射能の恐さについてよく知っているなどとはとても言えない。」(同書、p.11)




2011年の福島第一原発事故後、2度目の8月6日を迎える今、深く重たく響く警鐘である。





引用文献:
<増補>『放射線被曝の歴史-アメリカ原爆開発から福島原発事故まで』
中川保雄 著 明石書店 2011年刊

2012/07/13

 

大飯原発3号機再稼動後、停止された火力発電所と「でんき予報」について



大手メディアではあまり話題になっていませんが、大飯原発3号機がフル稼働を始めた2012年の7月9日、関西電力管内の8機の火力発電機が停止されていたことはご存知ですか?


テレビも新聞も、「大飯原発再稼動により節電緩和へ」などと報道していましたが、大飯原発3号機の発電量は118万キロワット。停止されていた火力発電機は、

赤穂2号機(60万キロワット)、相生1~3号機(38万キロワット:3台)、姫路第二4号機(45万キロワット)、海南1、4号機(45万、60万キロワット)、御坊1号機(60万キロワット)の8機で、384万キロワットの発電量です。
【今週の需給実績と来週以降の需給見通しについて】平成24年7月6日関西電力株式会社発表 PDFファイル 5ページ目の7月9日の状況参照
http://www.kepco.co.jp/pressre/2012/__icsFiles/afieldfile/2012/07/06/0706_5j_01.pdf



原発からの供給量が118万キロワット増えたとたんに、火力発電からの供給量を384万キロワットも減らして、「原発再稼動で節電緩和へ」という報道には首をかしげるというか、原発依存の社会への世論誘導としか、私には思えないのですが。。。



また、この停止された火力発電機の供給力は、毎日関西電力より出される「でんき予報」のピーク時供給力には加えられていません。

例えば、7月13日のでんき予報では、ピーク時の供給力として、火力1238万キロワットが示されていますが、そこには停止中の、赤穂発電所2号機(60万キロワット)、相生発電所1号機(38万キロワット)、姫路第二発電所4号機(45万キロワット)、海南発電所1号機(45万キロワット)、海南発電所2号機(45万キロワット)の233万キロワット分は含まれていないのです。
【関西電力でんき予報】参照http://www.kepco.co.jp/setsuden/graph/stop_status_pop.html





関電HPの情報だけではなく、疑問点をしっかり確認しようと、大飯原発を再稼動し火力発電機を停止させた理由について、関西電力にメールで問い合わせてみましたところ、

需給状況を踏まえながら、総合的に判断して、運転するか、停止させるかを判断しているが、現在停止中の火力発電所についても、気温の上昇による需要の急増などの際には、直ちに起動して供給力となるよう準備しており、今後、需給が厳しくなった場合には、全台運転する予定という趣旨の回答を戴きました。



その回答を踏まえ、「でんき予報」についても、今の発表の仕方では、「現段階で供給量に対して需要量が88~89%ならば、これから熱くなったら足りなくなるのでは?」と人々を不安にさせ、大飯原発4号機の再稼動もやむなし・・・と思わせるためにしているようにも見えるのではないかと指摘し、



「供給量に対して需要量が80%代で安定するように火力発電機の停止などの運転を調整しています」のような一文を「でんき予報」に書き添える必要があるのではないかと、関西電力に提言しました。

「貴重なご意見として上申させていただきます」とのお返事をいただきました。




これを読んでくださったあなたも、疑問点、提言があれば、ぜひぜひ関西電力に問い合わせてみてください。メディアは頼りになりません。面倒だけれど、自分で情報を集めて、自分で提言していかなくてはならない時代のようです。



関西電力【お問い合わせ】サイト
http://www.kepco.co.jp/siteinfo/inquiry/index.html




2012年6月10日大飯原発再稼動反対を訴える自転車発電イベント@神戸三宮


2012/07/08

 

エネルギー政策に関するパグリックコメント

2012年7月6日関西電力神戸支店前にてパブリックコメントを知らせる友人たち


政府が原発政策に対してパブリックコメントを募集しています。


これを元に今後の原発政策を決める目的のようです。

しかも期限が当初の7月31日から、8月12日まで延長されました。ぜひ、ご覧になって、ご意見をお送りください。


・「エネルギー・環境に関する選択肢」に対する御意見の募集(パブリックコメント)について

http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120702/20120702.pdf

また、埼玉、宮城、愛知で「意見聴取会」も来週末に開催が予定されています。

http://kokumingiron.jp/

その他、詳細は国家戦略室HPをご覧ください

http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive01.html



そして、7月6日金曜日、これまでの首相官邸前、関西電力本社前での抗議行動に賛同して、関電神戸支店前(三宮の東遊園地南側ビル)でも抗議アピールが行われました。これから毎週金曜日の6時から7時ごろまで開催されるとのことです。

私も庭の紫陽花を少しもって、神戸支店前に駆けつけました。友人も素敵なプラカードを作って参加してくれたので、記念にパチリ♪

「自分や未来の命を守るために、ぜひぜひ政府に意見を届けてくださいね~~」との願いのこもったプラカード。ありがとう☆


6日の様子が写真付きで新聞に紹介されました↓
・「原発再稼働反対に市民100人 関電神戸支店前」
(神戸新聞2012年7月6日)
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0005193776.shtml



7月15日追記:パブリックコメントに意見を送りました♪

意見を送る前に、どういう選択肢で、それががどういう意味を持っているのか?ちょっと神戸新聞(2012年7月15日)の記事を参考に考えましたので、わたしなりの見解を述べさせていただきます。




その3案とは、2030年までに電力の原発比率を 

①原発を強制停止でゼロにする 

②寿命に沿って順次廃炉にする15% 

③新設や置き換えが前提の20~25% 



ちなみに2010年の電力における原発比率は26%だったということで、③案は福島第一原発事故があたかもなかったかのように考えたい、原子力ムラの人たちが選ぶための選択肢かな?(って嫌味も言いたくなります;_;)

でも、この3択を作った官僚たちは「落しどころ」を②の15%と考えているらしいです。


一応、この15%とは、原子炉の寿命を40年として順次廃炉にしていくことを前提としているそうです。すなわち2030年の時点では寿命に達していない原発は20基で、発電できる電力は計約2100万キロワットだとのこと。ただ、原発の実際の稼働率が70%だったとすると13%、60%だと11%と原発比率は下がるそうです。



ということは!! いわゆる「霞ヶ関文学」読みをすれば、これは新たな原子力発電所建設への布石となる一文です。「目標の15%を達成できないから、原発造ります」とか言い出すのですよ、きっと。



最後の原発比率ゼロ案。私はもちろんこれを選択します。いろんなご意見がおありでしょうが、これを選ぶと使用済み核燃料も全量地中廃棄となり、再処理やもんじゅをやる理由もなくなります。実現不可能な壮大な無駄におカネを使わなくてよくなるので、再生可能エネルギーや省エネ技術革新に集中できます。他の2案は再処理と地中廃棄のセットなので、あのブラックホールのようなもんじゅにおカネを吸い取られます。



そして、私がゼロ案を選択する最大の理由は、命と未来です。原子力発電所は運転しているだけで放射能を撒き散らし、周囲を汚染します。ドイツが脱原発を決めた理由は「原発に近ければ近いほど小児がん及び白血病発生率が高い」という調査結果(注1)だったといわれています。

子どもの命と健康を犠牲にしてまで、原発を動かす必要がありますか?事故をおこせば故郷を、3.11後の今となっては祖国さえも失ってしまうような事態となるリスクを負ってまで、原子力で発電する必要がありますか?



命と未来のために、私はゼロ案を選択します。



注1『原発に近ければ近いほど小児がん及び白血病発生率が高い』
小児がん科医のアネット・リドルフィ氏の見解
http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=30358134










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