2016/08/31

 

子どもたちと一緒に兵庫県へ申し入れ


今年の3月から、私の所属する「さよなら原発神戸アクション・放射能社会を生きる連続セミナー部」で兵庫県に申し入れている若狭湾の原発事故を想定しての放射線モニタリング体制の拡充と安定ヨウ素剤の事前配布の取り組みに関して、対策のさらなる推進を求めて、8月30日に三度兵庫県庁を訪問しました。


今回は夏休みということもあって、子どもたちも一緒に申し入れに行きました。この子どもたちは、私たちのセミナーの賛同団体のひとつである生活協同組合コープ自然派兵庫さんが開催した、夏休みの子どもたち向けの学習会「原発から社会を見てみよう」に参加した小学生、中学生の子どもたちで、そこで学び、考えたことを原子力防災に反映してもらえるよう意見を述べたいとのことで、私たちに同行しました。

対応に当たってくださった兵庫県広域企画室長と職員の方に、「原発事故が起きたら、県はどのように僕たちを守ってくれるのですか?」「昨日の(高浜原発災害広域避難訓練)の感想はどうですか?」など、素朴な質問でしたが、皆原発事故を自分の問題として捉えていることが県の職員さんにも伝わったことと思います。

今回、子どもたちのお母さんたちも同行してくださいましたが、その中のおひとりで福島原発事故により関東から避難されてきた方が、原発事故というものがどれほど広範囲に、特に子どもたちへの体調という面で影響がでるのか、実際自分の子どもたちの甲状腺に異常が確認されていることも語ってくださり、原発事故の深刻さを、子どもたちとも、また県の職員さんとも共有できたのではないかと思います。

最後に、下記の申し入れ文書を平田兵庫県広域企画室長にお渡ししました。
安定ヨウ素剤配布に関しては、国の方針が変わらないかぎりは兵庫県として独自の対策を取るつもりはないようですが、兵庫県地域防災計画(原子力防災計画)に盛り込まれている「モニタリング等体制の整備」に関連する部分(各市町村の消防局の連携による中線量放射線モニタリング体制の確立)や、今すぐにでもできる兵庫県ホームページからリアルタイムのモニタリング情報へのリンクの簡素化を、できるだけ早急に実現して欲しいとお願いし、若狭湾の原発群が再稼働されるようであれば、その前に、また県庁を訪問したいと告げて、今回の申し入れを終えました。



---以下、兵庫県への申し入れ文書です---
兵庫県知事 井戸敏三 殿
                            県民の命と健康を守るため
                    原子力防災における対策のさらなる推進を

                                                                2016年8月30日
                                                      さよなら原発神戸アクション
                                                放射能社会を生きる連続セミナー部

 私たち「さよなら原発神戸アクション・放射能社会を生きる連続セミナー部」は、2016年3月10日に、「県民の命と健康を守るため原子力防災における対策の推進を」の申し入れを行いました。4月26日に申し入れに対する広域企画室よりの回答、兵庫県原子力防災計画に関するパブリック・コメントを経て、7月8日兵庫県地域防災計画(原子力防災計画)の公表となりましたが、3月10日の申し入れ内容は具体的・機能的には取り入れられておらず、私たちは原子力防災における対策のさらなる推進を要望します。

1.3月10日の申し入れ概要
a. 県内6カ所のモニタリングポストの改善および増設
b.原子力規制委員会のサイトの活用による県内6カ所のリアルタイムな放射線モニタリング情報の兵庫県ホームページへの掲載
c.安定ヨウ素剤の事前配布に向けた取り組みの推進

2.兵庫県地域防災計画(原子力防災計画)などにみる対応
a. モニタリング等体制の整備(第5 節 P.27)(関連資料1)
・県は、平常時・緊急時のモニタリングを行うため、国に対して高線量も測定可能なモニタリングポストの増設を求めるとともに、県としても環境放射線等モニタリングに必要な機器等の整備・維持に努める。
・国、原子力事業者、市町、公的研究機関等の関係団体と緊急時のモニタリングに係る緊密な連携を図る。
b. 8月現在で、兵庫県ホームページからの放射線量関係のリンクへは、
「暮らし・環境」→「大気環境」→「大気環境について」→「兵庫の環境トップページ」→「大気」→「空間放射線量等の測定結果」→原子力規制委員会HP等へのリンク=都道府県別放射能モニタリングにアクセスできる状況
c. 安定ヨウ素剤(第6 節 P.30)(関連資料1)
・安定ヨウ素剤は、放射性ヨウ素による内部被ばくを低減する効果に限定され、服用のタイミングによっては効果が大きく異なる一方、副作用は一定の割合で発生する可能性が高い。屋内退避や飲食物の摂取制限等の防護措置によって、ヨウ素を含む放射性物質の影響を低減できることから備蓄は行わない。

3.以上3点に対するさらなる対策推進の要望
・aおよびbについて
 4月の鹿児島県川内原発の再稼働、また兵庫県から300kmも離れていない伊方原発再稼働を受け、原発事故時の放射性物質拡散による県民の被ばくのリスクは以前よりも高まっています。また運転から40年を越える若狭湾の高浜原発1,2号機、美浜原発3号機も運転延長が原子力規制委員会より認可され、兵庫県が原発の過酷事故により高線量に被ばくする可能性も現実味を帯びてきたと言えるでしょう。県民の被ばくを最小限に留めるために、情報収集、情報提供は、自治体として責任を持って取り組んでいただきたい。そのため、
a. 今後どのように、国に対して高線量も測定可能なモニタリングポストの増設を求めていかれるのか、何年までに高線量モニタリングポストの設置を目指し、国が増設を行わなかった場合、兵庫県としてはどのように対策をするのかなど、具体的な工程をお知らせ願いたい。
b. 緊急時には信頼できる機関からのリアルタイムな情報へのアクセスが必須であることから、「空間放射線量等の測定結果」を兵庫県ホームページの「防災情報一覧」に掲載していただきたい。
・cについて
 安定ヨウ素剤については、原子力防災計画、またパブコメへの回答においても、副作用の危険性について、過剰に懸念されている印象をぬぐえない。また、原発から半径5キロの予防防護措置区域(PAZ)、半径30キロの緊急防護措置区域(UPZ)圏内では、安定ヨウ素剤は配備されており、その圏内にて副作用のリスクを下げるよう様々な対策が取られていることを考えると、同じく被ばくの可能性がある兵庫県でも、同様にリスクを下げ、安定ヨウ素剤を配備することは可能でありましょう。
 また、兵庫県原子力防災計画専門委員会のメンバーには、関連の専門家は西山隆神戸大学大学院医学研究科教授しか見られず、篠山市原子力災害対策検討委員会の兵庫医科大学上紺屋憲彦医師の見解など多様な意見を取り入れ、前向きに今後も検討を続けていただく、篠山市の原子力事故防災学習会資料を一部提出いたします。

4.最後に
 これまで、放射能社会を生きる連続セミナー部では、福島第一原発事故によって環境にまき散らされてしまった放射性物質からどのようにして、特に感受性の高い子どもたちを守るかということを目的に活動してきました。福島原発事故から5年が経ち、事故の原因究明も成されぬまま、実態を伴わない「新規制基準」で次々と身近な原発が再稼働されてゆく中、最悪の事態でもできるだけ被ばくを避けられるようにとの思いで、兵庫県への対策推進を申し入れてきました。
 福島の子ども脱被ばく裁判では、「被曝を最小限度にしなかったことへの損害賠償」が求められています。「きちんと情報が提供されていれば、どれだけ少量であっても避けることが出来た被曝だ。県民に安定ヨウ素剤を服用させなかったというだけで(国や福島県の加害行為は)十分だ」とも訴えられています。
 福島原発事故により何十万人もの人たちが今なお苦しみ、今後も不安を抱えて暮らしていかなくてはならない。私たち兵庫県民は、福島の方たちの苦難から学び、県や自治体、そして住民が一体となって、未来を担う子どもたちの被ばくを少しでも減らすように動いていけることを願い、原子力防災における対策のさらなる推進を要望します。

= 関連資料 =
・兵庫県地域防災計画(原子力防災計画)の修正 
  http://web.pref.hyogo.jp/kk39/documents/gaiyou.pdf
・兵庫県パブコメの結果 
  http://web.pref.hyogo.jp/kk39/documents/ikentogaiyou.pdf
・篠山市原子力災害対策検討委員会
  http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/bousai/post-11.html
・40年超の高浜原発、初の運転延長認可 例外が続く恐れ
朝日新聞DIGITAL2016年6月20日
http://www.asahi.com/articles/ASJ6N4G0DJ6NULBJ00N.html
・美浜原発3号機「40年超運転」了承へ 2例目の事例に
朝日新聞DIGITAL 2016年8月2日
http://www.asahi.com/articles/ASJ815H5LJ81ULBJ00L.html
【子ども脱被ばく裁判】「避けられた無用な被曝の責任をとれ」~第6回口頭弁論。井戸弁護士は「コストを理由とした被曝の強要は許されぬ」と国や福島県を批判
民の声新聞 2016/08/09
http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-33.html
------ 申し入れ文書ここまで ----


今回は、子どもたちも一緒ということで、申し入れの面談の後、県の災害対策室を見学させてくれました。子どもたちは大喜びでしたが、「原発事故が起きてこの部屋が使われることがないようにしたいね。」と最後はしみじみとした気分で、災害対策室を後にしました。

この申し入れを神戸新聞さんが記事にしてくださいましたので、リンクをご紹介します。
■原子力防災の充実を 福島の避難者ら県に申し入れ
神戸新聞NEXT 2016年8月31日
http://www.kobe-np.co.jp/news/bousai/201608/0009440032.shtml


兵庫県災害対策室を見学するこどもたち


追記
今回の兵庫県庁への訪問で、県庁でどんな大人が働いていて、どんなシステムがあって、新聞記者さんはどんな風に記事を作っていて、またお母さんたちはどんな思いで子どもたちのために動いているのか・・・。短い時間でしたが、社会は勝手に回っているのではなくて、ひとりひとりが動かしている、暮らしを守るために考え、発言し、行動していくことの大切さを学んでくれていたとしたら、ほんとうに嬉しいことだと思いました。

2016/08/15

 

伊勢崎賢治著「新国防論」を読んで





今年4月にKOBEピースiネットのメンバーとして関わった伊勢崎賢治氏の講演会。伊勢崎氏の考えを詳しく表した著作『新国防論』を読み終えました。現在、尖閣諸島をめぐる中国の動きから、日本でも防衛力強化や、集団的自衛権を容認する安保法制もやむなしとの考えが広まりつつあるように感じますが、伊勢崎氏の提案より、私が共感した部分をご紹介しながら、本気で日本の防衛について考えてみたいと思います。




1.戦後の日本の世界における位置づけ・・「敵国のままで国防できるのか」
1945年に第2次世界大戦で敗戦し、連合軍に占領された日本は、1951年のサンフランシスコ講和条約にて主権を回復、1956年国際連合加盟国となるも、敵国条項は現在も残ります。

敵国条項とは、国連憲章第53条第1項後段、「第二次世界大戦中に連合国の敵国だった国が、戦争により確定した事項に反したり、侵略政策を再現する行動等を起こしたりした場合、国際連合加盟国や地域安全保障機構は安保理の許可がなくとも、当該国に対して軍事的制裁を課すこと(制裁戦争)が容認され、この行為は制止できない」ことで、伊勢崎氏の言葉を借りると、

 敵国がどこかははっきりとは書いていませんが、もちろん日本とドイツです。普通の国と国の戦争には安保理の許可がいるけれど、もし敵国(日本)が「強制行動・武力制裁」を仕掛けてきたら、安保理5大国の一致など関係なくボコボコにしてもかまわないからね、というのが53条です。(p.108)
という内容です。この状況で中国(王様の1人=国連安全保障理事国)と対峙することを伊勢崎氏は懸念します。

 もし『平和国』としてのイメージが壊れ、昨今、欧米のメディアが安倍政権の右傾化を問題視していますが、このまま歴史修正主義者などとレッテルを貼られ、国連人権委員会なども敵に回し、人権に敏感な欧米の民衆も含め世界から孤立したら。さらに、王様の1人である中国と『武力の行使』絡みの問題を起こしたら・・・はたしてアメリカは、自らも君臨する王様クラブの人間関係を犠牲にしてまで、日本を庇ってくれるでしょうか?
 (中略)そもそも日本の国防を考えるなら、この敵国条項の撤廃がないと、何も始まらないと思うのは僕だけでしょうか
?(p.109-110)


.「保護観察の身」日本の防衛戦略
伊勢崎氏は、敵国条項から逃れられない日本の現在を、「保護観察の身」とも表現されています。そして、この状況を防衛に利用しようと提言されます。

日本の安全保障論を席巻しがちな「中国の脅威」は、(中略)「国際法」の運用の頂点にいるのが中国であり、「敵国」いわば”保護観察”の身である日本が、中国をはなから軍事的脅威とみなすのは、根源的な間違い*1

「中国の脅威」への対処は、アメリカとの「集団防衛」を地理的に拡大するのではなく、あくまで”非軍事”での対応を強化する。海ならば海上保安力、国内における「外国人犯罪」として捉える。非軍事のバッファーのない空では、何かあった時、国際司法に戦いの場を移しても状況証拠が確保しにくい。”保護観察”の身の日本にとっては国際法上の自殺行為であることを今一度認識(後略)

”保護観察”の身という立ち位置は「国防外交」として利用する。圧倒的強者(中国)が、「心を入れ替え、善行を重ねている前科者」に不当なちょっかいを出しているというジェスチャーをとり続ける。それには、日本自身が国際人権世論を味方に引きつけることが不可欠。慰安婦問題などでの「歴史修正主義」のレッテルは国防外交上の最大の障害。言い分は自制し、逆に、「チベット問題」など現代の人権問題を積極的に発信して、国際人権世論をリードする。(p.126-127)


3.敵を作らないのことが最良の防衛・・・PKOへ貢献をとおして
PKO(国連平和維持活動)への貢献は、武装をしなければできないわけではないと、伊勢崎氏は「国連軍事監視団」への自衛隊の参加を提言されます。

 PKO部隊をも監視の対象とする「国連軍事監視団」。軍人しかなれません。それも、指揮官レベルです。そして、非武装が原則です。(中略)伝統的に「安保理の眼」といわれ、停戦軍事監視はPKOという概念ができる前から存在する、国連の本体業務中の本体業務なのです。(中略)
 PKOの中に、少なくとも「敵」にとって、撃たれるという心配がない部署を確保することによって、できるだけ交戦しないように対話を持ち込み、信頼を醸成し、できれば武装解除の説得をしていきます。「住民保護」のために交戦しなければならない「中立性」を失った現在のPKOでは、唯一残された「中立性」なのです。
 日本は、なぜこれを自衛隊のお家芸にしないのでしょうか?
 国連軍事監視団と行動をともにした経験から言いますが、監視団員1人の派遣で、PKO部隊1個中隊(約150名)ぐらいの外交的プレゼンスがあります
。(pp.199-201)

また、伊勢崎氏は警告します。
 2015年1月、安倍首相がイスラエルのネタニヤフ首相との会談した際の「イスラム国対策に2億ドル支援」という発言は、それまで日本が中東で細々と続けてきた、アメリカにもイスラエルにも与しない「中庸外交」を、根底から崩すものでした。日本敵視の戦略的口実を「イスラム国」に与えてしまった今、もう遅いかもしれませんが、同じ政治家の発言で修復することは可能であり、試み続けなければなりません。(pp.128-129)


敵を作らないことが最良の防衛・・・そのためにも日本は、アメリカとの「集団防衛」の地理的な拡大は絶対に慎み、非武装でのPKOへの参加を通し、国際社会の安全保障に貢献し、国際人権世論をリードする国となり、非軍事的に「中国の脅威」に対処していく・・・
このような防衛の方法こそが、現在の状況に即したものと私は納得しましたが、ここまでお読みくださったあなたは、いかがお考えになりますでしょうか?



*1「国際法上の頂点にいる中国」をなぜ日本が脅威とす考えるのが間違いなのかがわかりにくいかと思いますので、補足いたします。
 国連安全保障理事国のひとつである中国は、その特権を維持するためにも国際法に則った行動をとると考える。すなわち現在では、1928年のパリ不戦条約を発端に、「自衛以外の戦争」は禁止されているため、中国は「自衛」との口実がない限りは、日本に武力行使できない。上記にも紹介しました「非軍事のバッファーのない空では、何かあった時、日本にとっては国際法上の自殺行為であることを今一度認識」とは、この「何か」を自衛の口実にして中国が「自衛戦争」を起こすことを意味しており、逆に言えば「何か」が起きなければ、「中国は攻めてこない=脅威ではない」との解釈です。

後記:国際法上は、個別的もしくは集団的自衛の戦争しか認められない・・・2011年から延々と続く「対テロ」戦争も発端は9月11日の同時多発テロでした。圧倒的な超大国が、「自衛」と称して、貧困に喘ぐアフガニスタンを空爆し、911とは何の関係もなかったイラクを空爆し、集団的自衛権の名の下、世界の大国も参戦し、イラクの石油利権に預かろうとする・・・。これが「自衛」戦争の実態です。

注*1では「自衛の口実なしには中国は攻めてこない」解釈を紹介しましたが、では他にどのようなことを中国が「自衛戦争」の口実となしえるか・・・、それに関して伊勢崎氏は現在の沖縄の状況を懸念されています。すなわち、現在の安倍政権のような「弾圧」「強行」路線が継続し、沖縄に独立の機運が高まり、それを弾圧する政府との間に内乱が起きたとしたら・・・そのとき沖縄暫定独立政府が北京に置かれたとして、中国が独立を承認し、その独立国から自衛戦争(日本から見たら沖縄での内乱)へ協力を求められたら・・・中国が集団的自衛権を行使して、日本を侵略する口実とするかもしれません。(pp.125-127「沖縄は国防の要」を要約)

世界では、このような画策はいくらでも行われています。
もしも「国防」が大切だと考えるなら、単純に武力の強化に頼ることがどれほど危険なことかを認識し、外交的にもっと賢く、したたかに戦略を練る必要を強く感じます。

参考・引用文献
『新国防論-9条もアメリカも日本を守れない』
伊勢崎賢治著 毎日新聞出版 2015年刊

関連動画
伊勢崎賢治が語るPKOのリアル 2016.4.9(KOBEピースiネット主催)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/295698

This page is powered by Blogger. Isn't yours?